昨日の夜からニュートリノだとか、相対性理論だとかの単語がネット上で話題になっています。原因は下記のニュース。
素粒子ニュートリノが飛ぶスピードは光より速い-。名古屋大などの国際実験チームが23日、光より速いものはないとするアインシュタインの相対性理論の前提を覆すような測定結果を発表した。測定の正しさが証明されれば、現代物理学に根底から見直しを迫ることになる。
名古屋大などの国際研究グループが23日発表した、ニュートリノが光よりも速いという実験結果。光よりも速い物体が存在することになれば、アインシュタインの相対性理論で実現不可能とされた“タイムマシン”も可能になるかもしれない。
このニュースを見たとき、正直とても変な気がしました。その原因は2つ。
まず1つ目。「光より速いものはないとするアインシュタインの相対性理論」と書かれている部分。原文で論文を読んだわけではないので絶対とは言い切れませんが、私の知る限り、そしてネットで調べた限り、相対性理論には「光より速いものはない」とは書かれていません。あるのは、光速度不変の原理と相対性理論から導かれる「質量のある物体を光速まで加速させるには無限大のエネルギーが必要になる」といういわゆる「光速の壁」です。おそらく、この2つをごちゃ混ぜにして、「光より速いものはない」という話にしてしまったのではないかと思います。
光速以下のものは、この光速の壁によりどんなに加速しても光速を超えることはできないのですが、光速を超えるものとして、1967年にはすでにタキオンという粒子の存在が仮定されています。このタキオンの存在自体は相対性理論を否定するものではありません。
タキオンは光と同じく質量0の粒子で光速を超える代わりにどんなに減速しても光速以下にはなれないという性質をもっています。これまでタキオンは仮定の話だけれ観測されたことはなかったのですが、今回、「ニュートリノがタキオンなんじゃね?」という話が盛り上がってきたということですね。
そしておかしな点の2つ目。「相対性理論を覆すかもしれない」、と言っておきながら、相対性理論では質量のある物体が光速に達すると時間が止まるという相対性理論を持ち出して、だから「光速を超えると時間をさかのぼる可能性がある」と説明している点。自分で否定したものを下敷きにして推論をしても説得力がないです。
特殊相対性理論では、ある観測系の時間を下記の式で表すことができます(ちなみにこの式は三平方の定理から導けます。「時間の遅れ 式」とかで検索すると図解したサイトが見つかると思います)。
[latex size=2] t = \sqrt{1 – (\frac{v}{c})^2}T[/latex]
cは光速、vは対象の速度、Tは観測系の時間です。なんだか小難しいですが、電車を想像すると簡単です。電車の速度をv、電車の中の時間をt、電車の外の時間をTとすると、上記の式ではvは光速cに対して無視できるほど小さいので
[latex size=2] t = \sqrt{1 – (\frac{0}{c})^2}T = T[/latex]
となり、電車の中でも外でも同じ時間が流れます。vが光速cに近づくほど、t < Tとなり電車の中に流れる時間は(電車の外から見ると)遅くなり、光速cと同じになると [latex size=2] t = \sqrt{1 - (\frac{c}{c})^2}T = 0[/latex] で、時間が止まります。 ここで、速度vが光速cの2倍の速度になった(光速を超えた)とするとどうなるか。 [latex size=2] t = \sqrt{1 - (\frac{2c}{c})^2}T = \sqrt{-3}T[/latex] でtは虚数時間となります。これの説明は私には手が負えないのですが、単純に時間をさかのぼっているわけではありません(マイナスの時間にはなりません)。 なので、例え光速を超えたとしても過去にさかのぼることは出来ないし、そもそも光速を超えられるのはタキオンだけなので、タイムマシンは作れないんじゃないかと思うのです。ただ、タキオンを通信手段として制御できれば、過去に信号を送ることはできるんですかね?過去の人がそれを受け取れるのかという話はありますが。 まとまりがなくなってきましたが、今回何が言いたかったのかというと、物理が苦手な私のような素人でもちょっと調べれば矛盾が出てくる大手メディアの記事ってどうよ?ということです。やっぱりニュースは鵜呑みにしちゃだめですね。 ところで、相対性理論については、「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)が面白くてわかりやすかったです。