
早稲田大学ロボット研究室発のスタートアップ企業Genicsは、口にくわえるだけで自動的に歯磨きができるロボット歯ブラシ「g.eN(ジェン)」の量産化に向け、2025年12月2日よりクラウドファンディングサイト「Kibidango」にてプロジェクトを開始しました 。
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「振動するだけ」ではない。物理的に磨く独自のメカニズム
口にくわえるだけで歯磨きができるというソリューションは、マウスピース型のものなどが一時期話題になっていましたが、その後はあまり話を聞かなくなりました。
これに対してg.eNは、14個の小さい歯ブラシが小型電動モーターで駆動し、歯列に沿って自動で上下左右に運動する仕組みを採用しています。ブラシは歯の頬側と舌側の両面に同時に当たるよう設計されており、あらゆる角度から歯を同時に磨くことができます。

開発にあたっては、このブラシの並びや動きを最適化するために、実に浴槽2杯分(約1万個)もの歯ブラシを試作し、検証を重ねたとのことです 。

その清掃効果は学術的にも裏付けされており、2022年の日本ヘルスケア歯科学会で発表された論文では、歯垢残存率が平均22.4%という結果が報告されています 。これは「口腔衛生状態として良好」とされる基準を満たす数値であり、手磨きと同等以上の効果を、手を動かさずに実現しています。
200台以上のプロトタイプを経て、家庭用サイズへ小型化
Genics代表の栄田氏は、2015年の早稲田大学大学院在籍時からこの研究を開始しました 。これまでに3Dプリンターで製作された200台以上のプロトタイプが、実際の介護現場や家庭でテストされ、フィードバックが蓄積されてきました。

関連(上図、QRコードのリンク先):
株式会社Genics|note
今回の量産モデル(新モデル)は、それらの現場の声(「もう少し小さく」「準備を簡単に」など)を反映し、大幅なアップデートが施されています 。
本体サイズを約42%カットし、一般的な洗面台の収納エリアに収まるサイズを実現しました。重さも320gから220gへと軽量化されています。

動作モードは2モードから4モード(お手軽モード、ていねい磨きモード、重点ケアモード、子どもモード)に拡充。充電端子もUSB Micro-BからUSB Type-Cに変更され、利便性が向上しています。量産体制の確立により、市販の電動歯ブラシ上位モデルとほぼ同等の価格帯を実現できる見込みです。

2つの機能で幅広い年齢層に対応
g.eNには2つの主要機能があります。1つ目は「全自動歯みがき」機能で、6才程度から使用可能。もう1つは「全自動口腔内刺激」機能で、3才程度から活用できます。
マッサージパーツに交換して使用する口腔内刺激機能は、くわえるだけで頬や舌を刺激し、口腔筋力の動き改善、開口量の向上、舌の動き改善などが期待できます。これにより「食べる」「話す」「呼吸」などの課題改善につながるとされています。

ブラシパーツは、上下一体ブラシ(大人用1種類)、上下別ブラシ(大人用1種類、子ども用1種類)、マッサージパーツ(SS、S、Mの3種類)が用意されており、使用者の年齢や目的に応じて選択できます。

今後の展望と価格
Genicsは、掃除機が「ルンバ」のようなロボット掃除機へと進化したように、歯ブラシも「ロボット歯ブラシ」が選択肢の一つになる未来を目指しているとのこと。 将来的には、提携クリニックと連携した個人に合わせた歯ブラシの制作や、スマートフォン連携によるパーソナライズ機能、お風呂で使える完全防水モデルの開発なども視野に入れているとのことです。
Kibidangoでのクラウドファンディングでは、「スターターセット」が3万円台前半から用意されており、高級電動歯ブラシと比較しても導入しやすい価格設定となっています。消耗品であるブラシユニットは約2ヶ月での交換が推奨されており、予定販売価格は1つ2200円。ユニットを交換することで、家族間で本体を共有することも可能です。
「歯磨きが面倒」「上手に磨けない」「介護の負担を減らしたい」。そうした切実な悩みをロボット工学で解決する「g.eN」は、オーラルケアの新しいスタンダードになる可能性もありそうです。
