
スマートホームの機器を買い揃えたのに、メーカーが違うと繋がらない。アプリが乱立して管理が煩雑になる。そんな経験をした人は少なくないはずです。
その状況を変えようとしているのが、スマートホームの共通規格「Matter」と、スマートキーの共通規格「Aliro」です。
CSAは3月18日、国内では初開催となるCSAメディアデーを横浜で開催しました。MatterやAliro(先日正式に規格1.0がリリースされたばかりのスマートキー標準規格)についての展示・デモ・基調講演が行われたほか、後半にはMatterに参画する各企業の代表者によるパネルディスカッションとQ&Aセッションも実施されました。
この記事では、そのパネルディスカッションとQ&Aセッションの様子をお伝えします。
CSA(Connectivity Standards Alliance)とは

Connectivity Standards Alliance(CSA)は、2002年に設立されたIoT標準規格の策定・推進団体です。旧称はZigbee Allianceで、2021年に現在の名称に改称されました。Amazon、Apple、Google、Samsungをはじめ、パナソニック、LG電子など世界の主要テック企業が加盟しており、取締役会は33社のグローバル企業で構成されています。

CSAの主な役割は「標準規格の策定」「認証プログラムの運営」「IoTソリューションの普及促進」の3つです。現在CSAが手がける代表的な規格が、スマートホームデバイスの相互接続規格「Matter」と、スマートキー(デジタルキー)の共通規格「Aliro」です。
Matter
Matterは2022年に正式リリースされたアプリケーション層のプロトコルです。Wi-Fi・Thread・Ethernetなど既存の通信インフラを活用し、メーカーを問わず対応デバイスが相互に連携できる仕組みを提供します。セットアップはQRコードスキャンで完了し、複数のスマートホームプラットフォームへの同時登録(マルチアドミン)にも対応しています。最新バージョンは2025年11月リリースのMatter 1.5で、長らく要望の多かったカメラ対応がこのバージョンで実現しました。2026年1月時点で、国内メンバー企業はParticipant(仕様策定参加)が26社、Adopter(認定取得)が16社に達しています。
Aliro
Aliroは2026年2月に仕様1.0が公開されたばかりのデジタルキー規格です。Apple・Google・SamsungのモバイルウォレットとNFC/BLE/UWBを組み合わせることで、スマートフォンや対応デバイスを物理的な鍵の代わりとして使えるようにします。住宅の玄関だけでなく、オフィス・ホテル・大学・集合住宅の共用部など、幅広いアクセス制御シナリオへの対応を想定しています。CSA公式発表によれば、220社以上のメンバー企業が開発に参加しており、Apple、Google、Samsung、ASSA ABLOYなどが最初の認証取得候補として名乗りを上げています。

パネルディスカッション
モデレーターはX-HEMISTRY株式会社 代表取締役/CSA日本支部代表の新貝 文将氏。パネリストは以下の5名です。
| 氏名 | 所属・肩書 |
|---|---|
| 平松 勝彦 氏 | パナソニック株式会社エレクトリックワークス社 上席主幹 |
| 橘 嘉宏 氏 | 三菱地所株式会社 住宅業務企画部 統括/HOMETACT事業責任者 |
| 安倍 寛 氏 | 株式会社エディオン 執行役員 営業本部 商品統括部 副統括部長 |
| 木下 琢生 氏 | 美和ロック株式会社 取締役 商品開発本部長 |
| マメ 氏 | 株式会社Bitta 代表取締役/YouTuber |

テーマ1:Before Matter――規格乱立の時代に各社が直面した課題
パネルディスカッションの最初のテーマは、Matter以前のスマートホーム開発・販売の現場がどういう状況にあったか、という話でした。
三菱地所でスマートサービス「HOMETACT」を手がける橘氏が振り返るのは、APIベースでの接続がいかに煩雑だったか、という話です。「各社の仕様が全然違います。エアコン一つ取ってもメーカーごとにいろんなクセがあって、30社・200機種以上をメンテナンスし続けるのは本当に大変でした」。

美和ロックの木下氏にとっても状況は同じだったようです。スマートロック開発に着手したのは10年ほど前のことで、当初は独自の通信方式を採用し、その後Bluetoothを搭載、各種APIへの対応も追加してきました。「通信のバージョンが上がるたびに全部やり直しで、継続的に膨大な労力がかかり続けていました」と言います。
エディオンの安倍氏は販売現場の課題として、「お客様から『スマートホームを始めたいんだけどどうすればいいか』と聞かれても、規格が乱立していてどれが最適か、将来的に安心かを説明するのが非常に難しかった」と述べました。
消費者・情報発信者の立場で参加したマメ氏は、「暮らしがどう良くなるかというイメージが伝わっておらず、専門用語ばかりで、一般の人に翻訳できるプレイヤーがほとんどいなかった。工務店も知識不足で、構造的に普及しにくい環境でした」と指摘しました。
パナソニックの平松氏は、ECHONET Liteが国内で1億台以上の普及実績を持ちながらも、「各メーカーのアプリの中で動いているだけで、真の意味での相互運用性にはなかなか届かなかった」と課題を整理しました。
テーマ2:After Matter――共通規格が変えるもの
続いて、Matter導入後の変化と期待について各パネリストが語りました。
橘氏は、Matter導入によって開発の進め方が大きく変わると見ています。「特定のメーカーのラインナップに縛られず、その時々のベストなMatter対応製品を現場で選べるようになる」。故障時の交換も柔軟になり、ソリューション開発そのものに集中できるようになるという考えです。
美和ロックは、日本で最初期のMatter対応スマートロックを開発しています。木下氏がその理由を説明します。「Matterに対応すれば、あとは全てに対応できる。開発コストと期間が大幅に削減でき、ユーザー側も中継器なしで安定した環境を得られます」。現在はマンション向けと戸建て向けにラインナップを拡充中とのことです。
販売現場を変えるのはシンプルさだ、と安倍氏は見ています。「このMatterのロゴがついている製品なら繋がる、というシンプルな説明ができるようになる。接客の仕方が変わってきます」。

マメ氏は消費者目線での楽しさとともに、新たな課題も指摘します。「メーカーの囲い込みを気にせず、自分の好きな製品を自由に選べるのは楽しい」一方で、「選択肢が増えすぎて逆に何を買えばいいかわからない」という層も出てくると見ており、コンシェルジュ的な役割を担える人や仕組みの必要性を挙げました。
テーマ3:Aliro――スマートキーの共通規格に寄せる期待

3つ目のテーマは、CSAが2026年2月に仕様1.0を公開したスマートキーの共通規格「Aliro」について。
マメ氏は、Aliroの訴求力について「Matterに比べると、目的が『鍵をスマートにする』で明確なので、一般の人が受け入れやすい」と見ています。「スマホをかざすとか近づくだけで開くという体験は、SNSでも映えますし」、スマートホームへの入り口として機能しそうだとのことです。
木下氏が明かしたのは、仕様公開からわずか2週間ながら既に開発に向けて動き始めているという事実です。「ハンズフリー解錠など、認証方法が統一されるのは利便性が高い。住宅の専用部での普及に向けて、すでに動き始めています」。

安倍氏はビジネスの広がりを見ます。スマートロックが普及すれば「スマートフォン本体の買い替えにもつながっていく」とし、ホテルやオフィスへのB2B提案も視野に入れています。
橘氏は不動産デベロッパーの視点から可能性に注目します。「当社はオフィス・商業施設・住宅など様々なアセットを持っています。顔認証でしか実現できなかったUXが、スマートフォンでシンプルに可能になるのは注目しています」。

平松氏は「電動自転車の乗降時や介護施設での移動など、両手がふさがっているシーンでのハンズフリー解錠は実用的な場面が多い。あらためて期待しています」とコメントしました。
Q&Aセッション
パネルディスカッション後、メディア関係者からの質疑応答が行われました。
――Aliroの利用にあたって、Apple・Googleなどのプラットフォーマーに管理料を支払う必要があるのか?
CSA自体が製品ごとに手数料を課すことはないとしつつ、各エコシステム側については「現時点で各プラットフォーマーから公式な声明は出ていないため断言はできません」としつつ、過去の例ではコンシューマー向けとコマーシャル向けで扱いが異なるケースがあったことを補足しました。
――高級マンションのエントランス、エレベーター、専用部まで一つのデジタルキーで管理できるか。また、賃貸の未払い時に即日無効化は可能か?
新貝氏は「どちらも可能」と回答。Aliroの設計上、階層的な権限管理と即時失効の仕組みが想定されているとのことです。
――AliroとMatterは独立した規格なのか。両者はどう使い分けるのか?
この2つは用途が異なる規格として整理されています。遠隔でドアの施錠状態を確認するのがMatter、目の前での解錠がAliroという役割分担で「2つは共存できます」と新貝氏。木下氏も、美和ロックとして両規格の同時搭載を進めていることを加えました。
――Matter発表から4年が経ちました。2026年3月時点で、理想の何パーセントまで到達したと思いますか?
新貝氏は「2025年11月にリリースされたバージョン1.5で、ユーザーが多く求めていたカメラへの対応が完了しました。海外メディアのネガティブな声もここ最近は減っています。大きなマイルストーンの一つは達成したと思っています」と答えました。

CSA日本支部Matter技術部会(Technical Interest Group)代表を務めるmui Labの佐藤 宗彦氏(Q&Aより参加)は「2026年がいよいよ本格的な普及の臨界点になると見ています。デバイスも揃ってきました」と続けます。
――ECHONET Liteをはじめ、これまで国内でスマートホームの共通規格がなかなか普及してこなかった歴史があります。今回は本気で普及させられると思いますか?
各パネリストがそれぞれの立場から答えました。
平松氏は「通信規格の話ではなく『QRコードで繋がる』というUXから入っている点が過去と違う」との見方を示し、木下氏は「Bluetooth以来の衝撃」とまで表現します。「ロック自体に通信機能を積み込むほど、今回の共通化には確信を持っています」。マメ氏はSNS・YouTubeの普及による情報環境の変化を指摘し、「機能はもう揃っています」と言い切りました。佐藤氏は「iPhoneやAndroidが既に各家庭にある。これ自体がコントローラーになるという点は、過去の規格にはなかった最大の強みです」と締めくくりました。
