
XREALとNEUUは3月25日、トークイベント「電脳夜話:電脳VISION × au Design project × XR」を開催しました。『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』内で展開されているAR体験「電脳VISION」の制作背景について、統括プロデューサーのKDDI砂原哲氏と制作を担当したSTYLYの渡邊遼平氏が登壇。さらに、VRテーマパーク「VR ZONE」を手がけた小山順一郎氏も加わり、XRとプロダクト体験の今後について語りました。

SESSION 1:「攻殻機動隊展 -電脳VISION- の裏側」
電脳VISIONは、虎ノ門ヒルズのTOKYO NODE 45階で開催中の『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』にあわせて用意されたAR体験です。会場ではXREALのARグラスを装着し、展示空間にタチコマやUI演出が重ねて表示されます。

砂原氏によると、この体験は単なる演出ではなく、原画展示を補助するガイドとして設計されたとのことです。膨大な展示の中から代表的な21点を選び、タチコマが“電脳通信”風のUIを通して解説する構成にすることで、作品をよく知らない来場者でも追いやすくしたといいます。

企画初期にはVR案や物理タチコマによる音声ガイド案もあったそうですが、最終的に選ばれたのはARグラスでした。VRだと展示と切り離された別体験になってしまう一方、ARなら現実の展示空間を生かしたまま、『攻殻機動隊』らしいUI/UXを重ねられるためです。来場者がグラスをかけて会場を歩くこと自体も、作品世界との相性がよかったとしています。
一方で、実装はかなりタイトだったようです。砂原氏がプロジェクトに加わったのは2025年4月で、展示開始は2026年1月30日。渡邊氏も2025年夏ごろから本格的に参加し、短期間で企画、演出、実装、運用を並行して詰めていったといいます。

課題のひとつは、200台規模のARグラス運用を前提にしたシステム設計でした。渡邊氏は、同時利用を想定した構成に加え、グラス装着時のUI/UX設計も大きなテーマだったと説明します。会場での認識精度の調整も難しかったようで、ライティングや図面変更の影響を受けながら、直前まで現場で微調整を続けていたとのことです。砂原氏は、暗所対策としてスポットライトを当てたところ、逆に認識しづらくなった場面もあり、照度だけでなく光のムラまで含めて詰めていったと話していました。

議論は、『攻殻機動隊』の世界観が現実の技術としてどこまで近づいているのか、という話題にも広がりました。砂原氏は、ブレインテックの発展で“電脳化”に近い方向へ進む可能性はあるとしつつ、身体に強くテクノロジーを埋め込む方向には個人的な抵抗感もあると説明。その一方で、タチコマのような親しみやすいAIの実現には期待を寄せていました。
渡邊氏は、AIを単なる機械として使うだけでなく、対話相手のようにコミュニケーションしながら仕事を進める場面が増えてきたと指摘します。将来的には、認識センサーの精度向上によって、人の顔や体を細かくトラッキングし、表情や服装まで含めて空間演出を変えていくことも考えられるとのことです。こうした情報レイヤーを選んで身にまとうような生活を、STYLYでは「空間を身にまとう時代」と捉えているとのことです。
また、まだ未実装の要素として、心に思い浮かべた言葉で通信する「インナースピーチ」や、思考によるコントロールも話題に上がりました。あわせて、歌川広重の「名所江戸百景」を手がかりに、東京の歴史的なレイヤーをARで可視化するというアイデアも紹介されました。
SESSION 2:「体験の設計者たち」
第2部には、小山順一郎氏が登壇しました。小山氏は1990年にナムコへ入社後、体験型ゲームのメカエンジニアから企画・プロデュースへ転じ、「アイドルマスター」「機動戦士ガンダム 戦場の絆」「太鼓の達人」など100タイトル以上に関わってきた人物です。VRテーマパーク「VR ZONE」の立ち上げにも携わり、現在は東京藝術大学でゲームインタラクティブアート専攻の教授を務めています。
小山氏は、1992年に初めてVRゴーグルを体験した際、当時のコンピューター性能やトラッキング性能の限界を強く感じたと振り返ります。その後、VR ZONEでは「ドラゴンボール」「エヴァンゲリオン」「攻殻機動隊 ARISE」など、IPの主人公体験を目指したVRコンテンツを制作してきました。

このうち「攻殻機動隊 ARISE」では、4人対4人で戦うフリーロームVRを構築。参加者はVRゴーグルと全身トラッキング機材を装着し、MSI製のバックパックPCを背負って体験する形式だったそうです。ただ、施設内で走り回るのは危険なため、「光学迷彩」のような要素は避け、「音が空間に見える」設定を採用。壁越しの敵の位置を把握できるようにすることで、むしろ静かに立ち回る方が強いゲーム性にしたといいます。結果として、攻殻機動隊らしい“静かな電脳戦”に近づけたとのことでした。
砂原氏は、au Design projectについても触れました。代表的な端末であるINFOBARは2003年発表ですが、プロジェクト自体は2000年ごろに始まっていたそうです。当時は携帯電話に自己表現のためのデザインがまだ少なく、auとしても「安かろう悪かろう」というイメージの払拭が課題でした。そのため、機能だけでなく情緒や体験全体に訴える設計を重視していたと説明しています。

小山氏は、こうした流れの先にあるものとしてスマートグラスに期待を寄せています。2026年がARグラスやスマートグラスにとって一つの節目になるという見立ても示し、AIとカメラを組み合わせれば、ユーザーが見ているものと情報支援を自然につなげられる一方、データ収集やプライバシー面の不安もあると率直に話していました。
創作の未来について、小山氏はゲーム技術のコモディティ化が進み、Robloxのように多くの人がコンテンツを作る時代になっていると指摘します。一方で、若いクリエイターでもVR/XRを実体験したことがある人はまだ少なく、実際に触れる前に可能性を判断してしまう状況を課題として挙げていました。そのため、優れたスマートグラスを市場に出し、良い作品を作って競争していきたいと話していました。
また、日常を少し楽しくする設計も話題になりました。「ポケモンGO」のように、毎日が少しだけ楽しくなる体験が重要で、スマートグラスから可愛い声が聞こえたり、視界に少し変化が加わるだけでも日常は変わるという考えです。砂原氏も、au Design Projectの端末をきっかけにデザイナーを志した人がいたことを印象的な出来事として紹介し、毎日見るたびに少し幸せな気分になるような、小さな変化の積み重ねに価値があると話していました。

最後に、「電脳VISION」と並行して開発中の「タチコマAI」も紹介されました。Geminiと接続し、タチコマの声優の音声を学習した音声合成によって、声優の声で自然に対話することを目指したものです。ベースには「Ubicot」というAIマスコットがあり、モーターを持たず動き回るわけではないものの、会話する“使い魔”のような存在として設計されているとのことでした。

まとめ
今後のXRについては、渡邊氏が「デジタルのレイヤーを生活の中で切り替えて使う」方向性に言及し、砂原氏も、スマートグラスが日常の風景や体験を変えていく可能性に期待を示していました。
今回の「電脳VISION」は、攻殻機動隊の世界観をなぞる企画である一方、展示ガイド、回遊体験、デバイス運用、AIキャラクター実装をひとつの場にまとめた事例でもあります。ARグラスがイベント演出にとどまらず、実空間の情報レイヤーとしてどう使われるのかを考えるうえでも、参考になる内容でした。
電脳VISIONが体験できる「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」は、4月5日まで開催中です。

