10月11日に開場が決まった豊洲市場。その内部を一足早く見学できる、メディア/ブロガー向けの見学会に参加してきました。いろいろと問題が指摘されていた豊洲市場ですが、築地市場での経験やそこで働く人たちの意見を取り入れつつ、細かなところまで工夫されているのを知ることができ、とても貴重な経験をさせて頂きました。
一般の人も自由に見学できるようになる豊洲市場
豊洲市場は大きく「水産卸売場棟」「水産仲卸売場棟」「青果棟」の3つの区画に分けられており、それぞれにせりなどが行われるスペース(卸売場)や、仲卸業者の店舗が構えられたりしています。
それらの場所にには一般の人は入ることが出来ませんが、様子を見られる見学コースが設けられており、そのスペースであれば自由に入ることができるそうです。
また、上の2つの写真、よくみると天井付近の壁面が江戸小紋で飾られています。これは見学通路から見たときに殺風景にならないようにとの心配りだそうです。
ちなみに水産卸売場は江戸小紋でしたが、青果棟では、12か所の窓部分の壁がそれぞれ旬の野菜、果物の色になっていたりします。
また、今回は見学できませんでしたが、水産仲卸売場棟の屋上は緑化スペースになっており、外から直接上がれるようになるそうです。24時間開放するのは安全管理面で難しく、実際の利用可能時間は検討中とのこと。市場の外周も公園が整備されるとのことで、ちょっと近隣の人がうらやましかったりもします。
各所に凝らされた工夫の数々
先ほどの水産卸売場の床面、マグロの卸売場側のみ床が緑色になっていますが、これはしっぽの断面を見やすくするためとのこと。マグロの品質を見極める際にしっぽを切ってその断面を見るのですが、床が緑だと断面の赤色が見やすくなるのだそうです。この色にするのは、マグロの卸売業者の意見を取り入れてのことだとか。
ちなみに床材には、フォークリフトなどが走っても削れて粉塵が出ることが無いようとの配慮から、セラミック混合のコンクリートが採用されています。
ほかにも、柱などのはばき部分(付け根部分)が清掃しやすいように直角ではなく曲面になっていたり、シャッターの収納部分も斜めになって埃が溜まらないようになど、細かなところまで気を配った作りになっていました。
そして、鮮魚を扱うということで空調管理にも気が配られています。せりなどが行われる卸売場は約10.5℃で管理されるとのことですが、隣接する仲卸売場棟は25℃程度になるとのこと。当然そのままでは冷気が逃げてしまうので、連絡通路には自動で開閉するシートシャッターが設置されています。
なお、卸売場、仲卸売場を含め、各区画の出入り口には手洗い場が用意されています。衛生面にはかなり気を使っているようです。
下記は水産仲卸売場棟の仲卸売場。赤矢印のスペースが1区画で、これが1300区画ほどあるとのこと。数区画を使う業者もいるので、最終的には500数十店舗が入ることになるそうです。ちなみに仲卸店舗は、魚屋さんやお寿司屋さんなど、お店の人に販売するところ。残念ながら一般の人は入れません。
以前、この区画分けのパーティションが、大型魚を魚をさばく際に邪魔になるとの話題も出ていましたが、これは食品衛生法上無くすわけにはいかないのだそう。例えば食中毒などが発生した場合、どの店舗から発生したかを特定するためにも必要なものとのことです。このスペースでは狭くて作業が出来ないという場合には、別途加工場も設けており、そこを利用することができるとのこと。
なお、特例として、隣接する店舗が同じ魚種を扱い、それぞれ、食中毒などが発生した際には共同責任とすることに同意する場合には、パーティションを外しても良いことになっているそうです。実際、30店舗ほどがこの条件で外すようです。
築地の仲卸売場をみると、割と雑然とした様子なので、本当にこの制限が必要なのかは気になるところ。ただ、築地が出来たときと現在とでは法令なども変わっているでしょうし、現在の法律に照らし合わせると必要ということなのでしょう。
そんな仲卸売場での工夫の一つが、人とターレットトラックの通路が別になっている点。築地では区別がないため、これが混雑の原因にもなっているそうで、豊洲市場では車道、歩道のように明確に区分されています。
青果棟の仲卸売場は水産とは作りが違い、1階が店舗で2階が事務所になっています。
ただ、業者によっては2階建てではなく、とにかく広いスペースを確保して欲しいとの要望もあったとのことで、そういう業者向けのスペースも確保されていました。ちなみに、設置してある冷蔵庫やビニールカーテンなどは、すべて業者が自分たちで購入・設置しているそうです。
魚や野菜の目利きのポイント
市場見学の後は、ここで取り扱われることになる魚や野菜などの目利きのコツを、実際に築地で働いている仲卸の方を招いて伺いました。
目利きの前に、そもそも仲卸とはどんなことをやっているのかについて簡単に説明がありました。これは水産も青果も同じだそうで、主に荷量と価格の調整とのこと。
例えば、魚が10匹水揚げされたとして、そのうち1匹だけを買いたい人がいるとします。ただし卸売業者は10匹単位でしか売ってくれません。そういう場合に仲卸が卸売が10匹購入し、1匹だけを販売。残りの9匹を別の人に販売と仲介役を行うわけです。
同時に、価格の調整も重要な役割となります。その魚(や野菜)がどれくらいの価値(価格)なのかを見極め、適正な価格で卸から購入し、販売します。
その際に重要なのが目利きです。ちなみに価格に関係なく一番いいものを選ぶだけなら、誰でも割りとすぐに出来るようになるそうですが、同じ価格(予算)の中でいいものを選ぶのが難しいそうです。
そんな目利きの例として取り上げられたのが鯛。実は新鮮だからおいしいとは限らないとのこと。実際に当日の朝にしめてさばいたものと、2日間寝かした(熟成させた)ものを食べ比べたのですが、当日のものはコリコリとした触感で美味しいものの、味はクセがないというか淡白な感じ。逆に2日間熟成させたものは、触感は柔らかく歯ごたえがないものの、旨味が増している感じです。
どのような料理に使うかなどでも最適な状態が変わるようで、そういったものをお客さんに合わせて選ぶのも目利きの重要な役割とのこと。
一方の野菜のほうは、目利きのコツはいろいろあるものの、わかりやすいのはずばり鮮度とのこと。そして、スーパーなどで鮮度がいい野菜を扱っているかどうかを見分けるには、ホウレンソウとレタスを見ればいいそうです。この2つの鮮度がいいお店は、他の野菜も大抵鮮度がいいものを扱っているのだとか。
なお、今回の試食ではこの時期に梨が登場しました。
10月中旬~下旬に収穫した新潟産の新高梨を雪室の中で貯蔵。糖度こそあまり変わらないものの、みずみずしさが増すとのこと。しかも時季外れの12月から3月まで鮮度を損なうことなく味わうことができるのが特徴だそうです。
これからブランド梨として売り出すとのことなので、来年のこの時期にはお店で売られているかもしれません。
移転後の姿を早く見たい
豊洲市場といえば、避けて通れないのが土壌・水質汚染の話題です。開場が延期された原因の一つでもありますが、以前からそもそも問題ない、いや大問題だと意見が割れているところでもあります。
今回の見学ツアーでは詳しくは触れられませんでしたが、水が溜まっていると話題になった地下ピットは排水後、あらたに15cmのコンクリートを打設するなど万全の対策を取っているとのこと。
また、市場内外の空気中のベンゼン濃度も23区内と変わらない水準になっているとのことです。
汚染が本当に問題ないのかについては、専門外なのでなんとも判断のしようがありません。
汚染問題以外でも施設の使い勝手が悪いなど、移転反対の理由が数々が上がっているようですが、実際に築地で働いている人たちの意見も取り入れられているようですし、そこまで大きな問題はないのではなかろうか?というのが正直なところです。
そして何より、早く動いているところを見てみたいのが、個人的には素直な感想です。
なお、豊洲市場では、定期的に都民向けの見学会も実施しています(見学コースは今回のものと同じようです)。ぜひ実際にご自身の目で確認してみて欲しいと思います。
見学会は中央卸売市場のサイトで募集しています。
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