
AIワークスペース「Genspark(ジェンスパーク)」が5月13日、東京都内でメディア向けラウンドテーブルを開催しました。共同創業者兼CTOのKay Zhu氏が、同社の最新機能と「自律的に動く組織」への構想について詳しく説明しました。
急成長を続けるAIスタートアップの現在地
Gensparkは2023年に米カリフォルニア州パロアルトで設立されたAIスタートアップです。共同創業者は、いずれも検索エンジン開発の専門家で構成されています。CEO兼共同創業者のEric Jing氏はBaidu検索の元VP&CPOおよびMicrosoft Bing検索の創業メンバー、CTO兼共同創業者のKay Zhu氏はBaidu検索の元チーフアーキテクトおよび元Googleコアランキングエンジニアという経歴を持ちます。

現在の事業規模は、サービスローンチから12ヶ月でARR(年間経常収益)2億5000万ドルを達成し、累計調達額は5億4500万ドル、企業評価額は12億5000万ドルに到達しています。

同社が掲げるビジョンは「Make work do itself.(仕事が、自ら動き出す世界へ)」です。プレゼンテーションでは「未来はすでにここにある。ただ、均等に行き渡っていないだけだ」というフレーズが繰り返し引用されました。これはSF作家ウィリアム・ギブスンの言葉として知られるもので、AIを使いこなす人とそうでない人の間に広がる格差を埋め、誰も取り残さないことをミッションとして掲げています。
主要AI企業との戦略的パートナーシップ
GensparkはOpenAI、Anthropic、Microsoft、Google、Amazonといった主要なAI企業・クラウドプロバイダーと戦略的パートナーシップを結んでいます。特徴的なのは、OpenAIやAnthropicが新モデルを一般公開する前の段階から、Genspark側でテスト・評価を行うポジションにあることです。

特にMicrosoftとは2026年4月にグローバル戦略提携を発表しました。GensparkのエージェントがMicrosoft 365(PowerPoint、Excel、Word)にアドインとしてネイティブに統合され、TeamsからもシームレスにGensparkエージェントを呼び出せるようになります。Entra IDやDefender、Purviewによる認証・ガバナンスも組み込まれ、Azure上でのスケーラブルな運用も可能です。
AGI 5段階と現状のギャップ
プレゼンテーションでは、OpenAIが定義するAGI(汎用人工知能)の5段階を引用しながら、現在のAI活用状況について説明されました。
- レベル1:対話するAI(ChatGPTなどのチャットボット)
- レベル2:推論するAI(GPT-o1、DeepSeek R1など)
- レベル3:自律的に動くAI(マルチステップタスクを自動実行)
- レベル4:イノベーションを生むAI(プロセス改善・価値創出)
- レベル5:組織を担うAI(組織機能をAIが自律運営)
Kay Zhu氏は、AIの能力自体は組織的に活用するレベル5付近まで到達している一方で、大多数のユーザーはレベル1に留まっている現状を指摘しました。一部のパワーユーザーが月額1000ドル規模の費用をAIに投じて生産性を向上させている一方で、一般ユーザーとの格差は拡大し続けているとのことです。

実際のデモで見えた機能の進化
AIスライド 4.0:テンプレートを超えた「スキル」機能
Gensparkでもっとも利用されている機能の一つがAIスライドとのこと。今回紹介された4.0では、従来のテンプレート機能を超えた「スキル」という概念が導入されています。

デモでは「Gartner Analysis」というスキルを選択し、「Gensparkについて調査してプレゼンにする」と指示するだけで、Gartnerレポートで求められる構成要件、セクションの並び順、書きぶり、図表の使い方といった”お作法”を反映したスライドが自動生成されました。
このスキル機能はユーザー側でも作成可能で、自社の過去資料を学習させて独自の要件やフォーマットを定義できます。また、最新の画像生成モデルと連携し、従来のPowerPointでは難しいクリエイティブなビジュアルも生成可能です。
AIシート:財務モデルを一発生成
AIシートでは、SECの公開データから企業の財務情報を取得し、ベスト・ワースト・標準の3シナリオで財務予測を自動生成するデモが行われました。重要なのは、単なる数値の埋め込みではなく、適切な数式が組み込まれたネイティブなExcelファイルとして出力される点です。

生成されたシートはそのままGensparkに渡すことで、数値をグラフ化し、各シナリオの要点を整理したプレゼン資料に変換できます。さらに、そのプレゼン内容をもとにポッドキャスト形式の音声や動画風コンテンツまで自動生成可能です。
Genspark Claw:チャットアプリから使える業務エージェント
「Genspark Claw」は、クラウド上の仮想マシンを割り当て、その中で完結する形でエージェントを動かす仕組みです。Slack、Teams、LINE、Discordなど普段使っているチャットアプリからタスクを依頼でき、必要なツールやAPIキーをVM内にのみ保持して実行します。

デモでは、Slack上で「LinkedInにポストしておいて」と依頼すると、Clawが投稿を実行する流れを実演しました(デモ当日は事前テストで同内容を投稿済みだったため、Claw側で「すでに投稿済み」と判断して再投稿を見送る場面も見られました)。
自律型組織を支える2つの仕組み——Light-out FactoryとSecond Brain
Gensparkが目指す「自律進化する自律型組織」を実現するため、同社は2つの重要なコンポーネントを活用しています。

Light-out Factory(ライトアウトファクトリー)は、GitHubのIssue/Pull Requestとエージェントを自動連携させた開発フローです。人間がGitHub Issueを立てると(例:「トップページをHello Tokyo版に変更する」)、エージェントが自動でIssueをピックアップし、コード生成、テスト、動作確認、スクリーンショット撮影を行い、最終的にPull Requestまで自動作成します。
同社では現在、従業員70名(うちエンジニア50名)という規模でARR2億5000万ドルを達成していますが、Kay Zhu氏によると「コードの100%をAIが執筆している」とのことです。AIが「本番環境に反映する一歩手前まで」の作業を自動で行い、毎日何十ものPull Requestを処理することで、超高速なサイクルで新機能を継続的にリリースしているとのことです。
もう一つの重要な構想がSecond Brain(セカンドブレイン)です。これは、人とAIが協働したセッションやドキュメントを、単なるログではなく組織のナレッジとして構造化・抽象化しながら蓄積する仕組みです。
スライド資料によると、内部的には「SB-Git」という仕組みで管理され、すべてのセッション情報がSecond Brainに同期されます。時系列でまとめつつ要約・抽象化を行い、繰り返し現れるパターンを見つけてエージェントが次回以降に活用します。
同じエージェントに継続的に仕事を依頼することで、そのチームや会社の「いつものやり方」、よく使う社内用語、好まれるレポートの型などを自然と学習し、使い込むほど業務フローや社内特有の文脈を深く理解していくことを目指しているとのことです。
「翻訳レイヤー」としての戦略
Gensparkは自社を「翻訳レイヤーを積み上げる存在」と位置づけています。下位から順に、LLMモデル層、自律型エージェント層、統合知能(オーケストレーション)層、そして自律進化する自律型組織層という4層構造を想定しています。

上位レイヤー(抽象度が高い層)ほど技術的難易度は上がりますが、ユーザーから見たインターフェースはシンプルになっていきます。最終的には「ユーザーは何も意識しなくてよい。ただ動く」という状態を目指しています。
Kay Zhu氏は「真の競争はAIの『翻訳』にある——人間の意図と機械の知能を最も巧みに橋渡しできる者が勝つ」と述べ、より強いLLMを作る競争ではなく、既存LLMを組み合わせて人間の意図を機械の能力に翻訳するレイヤーを構築することに注力する方針を明確にしました。
レベル5を超えた未来構想
プレゼンテーションの最後では、AGIのレベル5を超えた構想として「自己進化する経済(Self-Evolving Economy)」や「文明的AI(Civilizational AI)」といったコンセプトも示されました。

現在はレベル3の自律エージェントとオーケストレーションが主戦場ですが、Gensparkは段階的により高次のレイヤーの実現を目指していく方針です。
