
ヤマシンフィルタとミツフジは2026年7月29日、資本業務提携を締結したと発表し、都内で記者発表会を開きました。ヤマシンフィルタのナノファイバー素材技術と、ミツフジの銀めっき繊維「AGposs」およびウェアラブル・データ解析技術を組み合わせ、「着るウェアラブルデバイス」と「次世代電磁波シールドフィルタ」の実用化を目指すとしています。
ヤマシンフィルタは建設機械用の油圧フィルタで国内トップシェアを持つメーカーで、フィルタの性能を決めるろ材を自社開発している点を強みに挙げています。2026年5月には信州大学繊維学部と共同研究契約(SHIN-PROJECT)を結び、ナノファイバーの用途開発を進めてきました。代表取締役社長執行役員の山崎敦彦氏は、ナノファイバーのろ材を手にしたときに「ゴミを取るフィルタだけじゃなくて、熱を遮断する、音もカットできる、電波や電磁波もカットできる」と用途の広がりに気づいたと振り返りました。
一方のミツフジは、1956年に京都・西陣の帯工場として創業し、1992年に銀めっき導電性繊維に着目し、技術開発を本格化。2014年に導電繊維を軸に事業を転換した会社です。導電性繊維AGpossとウェアラブル「hamon」を展開し、導入企業は4000社以上、出荷台数は累計410万台を超え、日本メーカーとしては出荷台数1位だとしています。両社とも今年で創業70年です。
ジェルも胸ベルトも使わない「ナノファイバー電極」
ウェアラブル側で両社が狙うのは、着るだけで心電計測ができるデバイスです。
ヤマシンフィルタ取締役副社長執行役員の山崎裕明氏は、光学式のスマートウォッチが手軽さでウェアラブルの間口を開いた一方、より正確な生体情報を取るには電極式が要ると説明しました。ただ電極式は、ジェル状の電極を貼る必要があるなど着用のハードルが高い。ここにナノファイバーを充てる、という筋書きです。繊維径は約500nmで、髪の毛(約60μm)の約120分の1、一般的な樹脂繊維(約8μm)より細いため、凹凸のある皮膚の表面に沿って密着しやすく、繊維の隙間が空気や湿気を通すのでムレにくいとしています。

役割分担は次の通りです。
| ヤマシンフィルタ | ミツフジ | |
|---|---|---|
| 担当領域 | ナノファイバー電極・機能素材の開発と量産 | デバイス開発、ソフトウェア、データ解析 |
| 主な技術 | ナノファイバー(独自MB法で量産)、信州大学との機能化技術 | 銀めっき繊維AGposs、ウェアラブルhamon、深部体温推定アルゴリズム |
| 販路 | — | 導入企業4000社以上 |
ミツフジが持つ深部体温の変化を推定するアルゴリズムは、産業医科大学との共同特許によるものです。2025年6月に改正労働安全衛生規則が施行され、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化されたことも、常時モニタリングの需要を後押ししているとしています。

デモ1:日本代表候補の心電波形は、動いた瞬間に崩れた
発表会では2つのデモが行われました。1つ目は、東京医療保健大学女子バスケットボール部の後藤音羽選手が現行のウェアラブルデバイス(胸ベルト型の医療機器)を装着し、心電波形をリアルタイムで表示するというものです。後藤選手は2026年5月に日本代表デビューを果たした選手で、恩塚亨監督とともに登壇しました。

安静時の波形はきれいに出ていましたが、体を動かした途端にノイズで埋まりました。ミツフジの三寺歩社長は「自社の製品でこんなにノイズが入ってひどいですね、というのはすごく緊張感がある形なんですけれども」と前置きしたうえで、体動ノイズこそがウェアラブル業界の最大の課題だと説明。動きが入った瞬間に「まるで使えないものになってしまう」ため、スポーツ現場でのリアルタイムのコンディション管理が難しいのが現状だとしています。
ヤマシンフィルタのナノファイバー技術を利用すれば、動いても常に肌に密着させることができ、体動ノイズの問題も解決できるのではないかという考えです。


恩塚監督は「選手のコンディショニングは基本的に主観で、感覚的なものが多い」とし、これを客観的に可視化できれば不要な怪我やストレスの軽減につながると期待を述べました。
デモ2:布のケースにスマホを入れると圏外になった
2つ目のデモは電磁波シールドです。AGpossで作ったシールド布のケースに通話中のスマートフォンを入れると、その場で圏外になり、留守番電話に切り替わりました。大がかりな電波暗室を使わず、布1枚で遮蔽できることを示す実演です。

「遮蔽と通気の両立」でデータセンターを狙う
もう一方の柱である次世代電磁波シールドフィルタは、生成AIの普及で急増するデータセンターなどを主なターゲットに据えています。
山崎裕明氏は、電磁波対策として最も分かりやすいのは金属で機器を覆うことだが、それでは熱がこもり、排熱に大きな電力が必要になると指摘。シールド性能と排熱が矛盾する関係にある点を課題として挙げました。ナノファイバーは微細な繊維が入り組んだ構造で電磁波を減衰させつつ、繊維間の隙間で通気性を確保できるため、この矛盾を緩和できるとしています。プレスリリースでは「呼吸する電磁波シールドフィルタ」と表現されています。

用途はデータセンターにとどまらず、通信インフラ・基地局、ドローン、EVのバッテリーケース、医療・精密機器などを想定しているとのことです。両社は、スマートテキスタイルと電磁波シールドの2市場が2030年に合算で約179億米ドル(1米ドル150円換算で約2.7兆円)規模になるとの外部調査を示しました。

製品化の時期は「示せる段階にない」
質疑で開発・量産時期を問われた山崎裕明氏は「どちらの製品に関しましても実証および市場ニーズの検証というフェーズでして、計画をお示しできる段階にはございません」と回答しました。ヤマシンフィルタ側の資料には、1〜1.5年で特許・試作、2〜3年で事業化開始、3年以降に社会実装の本格展開というフェーズが示されています。
着衣型デバイスについては、医療機器認証を取得するものと非医療機器の2種類を検討中で、「できれば医療機器でグローバルでやりたい」(三寺氏)としています。形状も着衣型になるか貼り付け型になるかを含め、大学の医学部附属病院などでの試験を通じて詰めている段階だとのことです。共同開発で取得したデータについても「始まったばかりぐらいのレベル」(三寺氏)とのことで、実際の製品が見えてくるまでにはもう少し時間がかかりそうです。
