
株式会社INFORICHは2026年8月4日、モバイルバッテリーのシェアリングサービス「CHARGESPOT(チャージスポット)」の国内累計レンタル回数が1億回を突破したと発表しました。あわせて、モバイルバッテリーの安全な使い方と正しい廃棄を広める「CHARGESPOTで、安全を借りよう」プロジェクトの始動を明らかにしています。
同日開かれたメディア向けイベントでは、リチウムイオン電池を専門とする関西大学の石川正司教授が事故の背景を解説し、INFORICH側からはサービスの安全設計と今後の啓発施策が説明されました。1日安全大使として、お笑いコンビのドンデコルテのお二人も登壇しています。
私自身、カバンの中にモバイルバッテリーを入れっぱなしにしている自覚がある側なので、今回は「借りる仕組み」の話より先に、モバイルバッテリーそのもののリスクの話から整理していきます。
モバイルバッテリーの事故は5年で2140件、ピークは8月
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が2026年7月15日に公表した資料によると、2021年から2025年までの5年間にNITEへ通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は2140件。製品別ではモバイルバッテリーの事故が最も多く、事故件数は気温の上昇とともに増え、8月にピークを迎えるとしています。

電池の中には正極と負極があり、その間をセパレーターが仕切っています。この2つの電極が何らかの理由で内部で接触(内部短絡)すると、発熱・発火につながります。原因としては、製造段階での位置ずれのほか、長期間の使用で内部にガスがたまり、その圧力で電極どうしが押し付けられるケースが挙げられました。

また、夏に事故が増える要因としては、温度が挙げられます。温度については、45度、どんなに高くても50度以内で使うべきだと石川教授は説明します。バッテリーは充電・給電のたびに自ら発熱するため、周囲が暑いと危険な温度域に近づきやすい。冬なら発熱してもまだ余裕があるものが、夏はその余裕がなくなる、という説明です。60度を超えると必ず事故になるわけではないものの、最悪の場合は熱暴走が起きて電解液が燃え、正極材料から酸素が出てさらに温度が上がる、と述べていました。

危ないのは、無意識にやっていること
INFORICHがNITE監修のもと2026年6月に実施した調査(モバイルバッテリー保有者1406名、インターネット調査)の結果も示されました。数字を見ると、「知らずにやっている」類の行為が並びます。
| 経験・状況 | 回答率 |
|---|---|
| 手元や机の上から地面に落としてしまった | 18.78% |
| リコール対象品かどうか確認したことがない(またはわからない) | 17.99% |
| カバンの中で水筒や重い本などと一緒に入れた(圧迫・接触) | 11.38% |
| ズボンの後ろポケットに入れたまま座る | 9.46% |
| 本体が膨らんでいる、または傷や割れがあるのにそのまま使い続けた | 6.90% |
| 運動中の汗や濡れた服のポケットに入れた | 6.90% |
※出典:INFORICH「モバイルバッテリーの保有状況に関するアンケート」(2026年6月10〜12日、n=1406)。高温リスクについては、充電中に熱がこもる環境や夏の車内放置など、何らかの高温環境での経験があると答えた人が40%強でした。
落下は「よくあること」として流されがちですが、NITEは、落下や圧迫で内部構造が損傷すると、直後は異常が見られなくても、その後の使用中や充電中に内部短絡を起こして発煙・発火に至る場合があるとコメントしています。膨張や外装の傷、変形は、内部のセルがすでに損傷している可能性を示すサインだ、とも。
もうひとつ気になったのが、別調査での「半年以上使っていない放置バッテリーが1個以上ある」約4割、「廃棄方法を正しく知らない」約6割という数字です。
「3つのC」で押さえる
石川教授が紹介したのが、経済産業省や環境省など関係省庁が連携して呼びかけている「3つのC」です。NITEの資料にもまとめられています。
- 賢く選ぶ(Cool Choice):購入前に販売事業者の連絡先や製品情報、リコール情報を確認する。表示マークが適切か確認する
- 丁寧に使う(Careful Use):高温になる場所で使用・保管しない。強い衝撃や圧力を加えない。異常を感じたら使用を中止する
- 正しく捨てる、そして資源循環(Correct Disposal with better recycling):廃棄時にリチウムイオン電池の有無を確認する。メーカー回収や自治体の回収区分を確認する
石川教授はPSEマークについて、付いていれば万全というわけではないものの、製造事業者が安全テストを行ったという宣言なので、付いていない製品より安全性は高いはずだと説明。そのうえで、PSEマークがあっても事業者名や連絡先が分からないようにしている製品は避けたほうがよさそうだと補足していました。ここは、通販で安価な製品を選ぶときのチェックポイントとして覚えておきたいところです。

廃棄については、自治体ごとに回収の仕組みが異なるため、住んでいる市区町村名と合わせて検索して確認する必要がある、とのことでした。
CHARGESPOTの「3つの安全設計」

ここからがINFORICH側の取り組みです。同社執行役員 Group CPOの広瀬卓哉氏は、国内累計1億回のレンタルの中で発火・破裂といった重大事故は0件だとしたうえで、それを支える体制を「作る安全」「見守る安全」「駆けつける安全」の3つに分けて説明しました。
| 内容 | |
|---|---|
| つくる安全 | 世界ブランドで採用されるバッテリーセルを使用。日本のPSE適合に加え、中国の3C認証、米国のUL、欧州のCEなど各国の安全規格に準拠。過温度保護(OTP)、短絡保護(SCP)、過電圧・過電流保護、静電気放電保護(ESD)の5つの保護機能を搭載し、逆充電試験・落下衝撃テスト・バッテリー老化試験などの検査を実施 |
| 見守る安全 | 全バッテリースタンドとバッテリーを24時間365日リアルタイム監視。温度・充電効率・セル理論容量からバッテリー1本ずつをスコアで管理し、劣化の兆候は異常が起きる前に自動ロック。該当スロットへの電力供給を遮断するオフライン制御も備える |
| 駆けつける安全 | 全国2万4000人以上のオペレーションワーカー(ギグワーカー)と自社スタッフによる回収網。システムのロック通知と同時に回収指示を自動送付する。投入から1年以内に約80%、劣化がないものも最大3年で入れ替え |
個人でバッテリーを所有していると、いつ買ったかも忘れて何年も使い続けてしまう。一方でCHARGESPOTは、最長3年ですべてが入れ替わる前提で回っています。劣化したものが手元に残り続けない、という点が個人所有との差だと言えるでしょう。

国内の設置台数は約6万3000台(2026年6月時点)で、47都道府県をカバー。海外は香港・台湾・中国・タイ・シンガポール・マカオ・イギリス・イタリア・オーストラリアの9エリアに展開し、グローバルの累計設置台数は9万3237台(2026年3月時点)です。取締役 兼 執行役員COOの高橋朋伯氏は、国内のバッテリースタンド設置シェアは84.7%(2025年12月時点の設置台数、自社調べ)だと説明していました。

なお、この「事故0件」は、CHARGESPOTが適切に取り扱われている状況で、バッテリー本体の構造上または製造上の欠陥に起因すると特定された重大事故が0件、という意味です。落下・水没・強い衝撃・不法投棄などの不適切な取り扱いによる破損や、それに起因する不具合は含みません。数字の印象だけで受け取らず、この定義まで含めて理解しておくのが妥当だと思います。
8月8日・9日、歌舞伎町タワーで回収イベント
「安全を借りよう」プロジェクトとして発表されたのは3つの施策です。

ひとつ目が、不要になったモバイルバッテリーの回収です。2026年8月8日(土)・9日(日)の10時から18時まで、東急歌舞伎町タワー2階で回収を実施します。対象はリチウムイオン電池を使用したモバイルバッテリーで、破損しているもの、膨張しているものは対象外。持ち込むとCHARGESPOTの利用クーポン(3時間未満利用相当)がもらえます(引き換えは1人1回まで)。膨張しているバッテリーは、住んでいる自治体のルールに従って処分することになります。

ふたつ目が屋外広告です。2026年8月3日(月)から9日(日)まで、東急田園都市線渋谷駅の道玄坂キラキラ☆ボードAに、安全性を訴求するビジュアルを掲出しています。

3つ目が、東急歌舞伎町タワー・文化服装学院との3社連携による啓発プログラムです。2026年9月初旬から10月初旬にかけて、90分×10コマの演習として実施予定。バッテリーの安全な使い方をどう社会に伝えるか、学生と一緒にコミュニケーション戦略を考える、という内容だとしています。詳細は追って発表されるとのことです。

1日安全大使はドンデコルテ
イベント後半では、1日安全大使に就任したドンデコルテの小橋共作さん・渡辺銀次さんが登壇しました。真夏の車内に置き忘れたバッテリーの「心の声」や、膨らんだバッテリーの理由をフリップで答えるコーナーを挟みつつ、最後は渡辺さんが安全大使としての演説を行っています。

「バッテリーは持てば持つほど自分の責任、借りれば借りるほどプロの責任。安全は借りる時代です!」という締めで、企業側のメッセージをうまく言語化していました。小橋さんも「危険なものを持ち歩くよりお借りするほうが楽」とコメントしています。
まとめ:借りる選択肢は増やしておきたい
CHARGESPOTの「借りる」という提案は、モバイルバッテリーの劣化管理を個人からサービス側に移す、という整理だと理解しました。回収サイクルが運用として回っている以上、少なくとも「いつ買ったか分からない1本を使い続ける」状態よりはリスクが低いはずです。
ただし、借りることがすべての場面で最適とは限りません。CHARGESPOTのレンタル料金は利用時間に応じた従量制で、借りている時間が長いほど積み上がります。

長時間・高頻度で使うなら、自分で1本持っていたほうが安く済む場面はあるはずです。返却スタンドが近くにない地域では、返し忘れで料金がかさむリスクもあります。災害時の備えという意味でも、手元に1本あること自体は否定されるものではないでしょう。実際、INFORICHも災害時には48時間の無料開放を行っており、7月28日の熊本県を震源とする地震でも実施したと高橋氏が説明していました。これはあくまで、スタンドが設置されている地域で電源が生きていることが前提の仕組みです。
現実的な落としどころは、自分で持つ1本はきちんと管理して、それとは別に「持ち歩かない日」の選択肢としてCHARGESPOTを使う、という併用ではないかと思います。そして、引き出しの奥で何年も眠っているバッテリーは、この夏のうちに処分する。今週末に歌舞伎町タワーへ行く予定がある人は、ついでに持って行ってみてはいかがでしょうか。

