「個人のエージェント」ではなく「組織が乗るスイート」へ ─ Genspark CTOが語るAI活用の次段階とコスト戦略

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AIワークスペース「Genspark」を展開するGensparkは2026年10月14日、都内でメディア向けのラウンドテーブルを開催しました。CTOのKay Zhu(カイ・ジュー)氏が直近のアップデートと今後の方向性を説明したほか、日本法人の中村氏による社内活用の紹介、レオパレス21と日総工産による導入事例の発表がありました。

Zhu氏の講演の軸は、個人向けのチャットボットから、組織全体が乗って動けるスイートへと舵を切ること、そしてトークンコストの削減の2つです。Zhu氏の講演は英語で、会場では同社の音声入力アプリ「Speakly」の翻訳機能を使って聞く形式でした。

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「個人のエージェント」ではなく「組織が乗るスイート」へ

Zhu氏はまず、AIの使われ方を5段階のレベルで示しました。大半のユーザーは、ChatGPTのような対話型AIを「より良いGoogle検索」として使うレベル1にとどまっています。エージェントにスライドや文書、動画、画像といった成果物を作らせるレベル3の層はごく一部で、この層のユーザーはAIに数千ドル規模を費やしているといいます。

一方でZhu氏は、AIの能力そのものはすでに「組織」を担うレベル5にあるとの見方を示しました。根拠として挙げたのが自社の体制です。Gensparkのソフトウェアエンジニアは49人で、この人数で過去1年に28の機能を出してきました。そのうえで、社内で使っているツールや組織としてのAIの運用を、ユーザーや顧客も使える形にすることが同社のミッションだと述べています。

このためGensparkが目指すのは、個人向けのチャットボットでも、スライドや文書を作るだけのエージェントでもなく、組織全体が乗って動けるスイートだとしています。講演の残りは、その方向に沿って直近数か月に出した要素の説明でした。

セカンドブレインは、どのエージェントからも使える文脈の層

最初に取り上げたのは、「Genspark AI Workspace 6.0(AIワークスペース 6.0)」で発表した「SecondBrain(セカンドブレイン)」です。Zhu氏は、概念だけで語ると抽象的になるとして、技術的な構成から説明しました。

セカンドブレインは3層構成の真ん中に入ります。下の層は、メールや議事録、プロジェクトの履歴、Notionのページなど、ユーザーの文脈を収めたリポジトリ群です。チームで共有しているナレッジベースもリポジトリの1つとして扱えます。セカンドブレイン本体はこれらを管理し、横断して検索・一覧・参照する役割を担います。

上の層に対しては、各種エージェントの実行環境(ランタイム)に共通のインターフェースを提供します。Gensparkには、自社のエージェントや、サンドボックス上で動くスーパーエージェント(Super Agent)など複数のランタイムがありますが、どれを使っても同じセカンドブレインにアクセスできます。Webでも、メッセージアプリやSlack経由でも同じ記憶を使えること、つまり特定のエージェントに縛られないことを、Zhu氏は重要な点に挙げていました

なお、SecondBrainは2026年7月20日の「AI Workspace 6.0」で提供が始まっており、無料プランから利用できると案内されています。

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トークンコストを3つの層で下げる

2つ目のテーマはコストです。Zhu氏によれば、年初は多くのユーザーがトークンを使えるだけ使う状態だったものの、その後、企業顧客を中心に「トークンが高すぎる、管理したい」という声が相次ぎました。Gensparkはこれに、次の3層で対応しているとのことです。

  • モデルの自動ルーティング:タスクに合ったモデルへ振り分ける。「こんにちは」程度の問いかけに高価なフロンティアモデル(最先端の大規模モデル)を使わない
  • オープンウェイトモデル(重みが公開され、自社の環境でも動かせるモデル)のファインチューニング(追加学習):品質を保ったまま、コストと処理時間を下げる
  • ハーネス(エージェントに指示や道具を与えて動かす、モデルの周辺の仕組み)の工夫:無駄を減らす

ハーネスの例として挙がったのが「アドバイザーモード」です。作業の大半は安価な実行用モデルが担い、行き詰まったり判断に迷ったりしたときだけ、高価なアドバイザー用モデルに助言を求めます。全体のコストは安価なモデルに近く、品質は高価なモデルに近づく、とZhu氏は説明しています。

ファインチューニングの成果として紹介されたのが、9月に公開した自社モデル「Gen-1 Slides」です。オープンウェイトモデルのMiniMax M3をベースに、Fireworks AIと共同で強化学習による追加学習を施したスライド生成用のモデルで、AIスライド(AI Slides)のStandardモードの既定モデルになっています。Zhu氏は、スライド生成の評価指標でClaude Opus 5と同等の性能を、Opus 5の6%の価格で実現したと述べ、同じクレジットで約20倍のスライドを作れるとしました(同社ブログでは、1デッキあたりの実測コストで約9.5倍安いと説明しています)。

同社ブログで公開されている数値は次のとおりです。

項目Gen-1 SlidesClaude Opus 5
入力トークン単価(100万トークンあたり)0.30ドル5.00ドル
1デッキあたりの実測コスト0.44ドル4.16ドル
社内評価の総合スコア(200タスク)0.8210.810
※出典:Genspark公式ブログ https://www.genspark.ai/blog/gen-1-slides

講演での「6%」は入力トークン単価の比です。項目別では、ビジュアルデザインでGen-1 Slidesが上回る一方、タスクの完遂度と内容の質ではOpus 5が上回っており、総合スコアの差はわずかです。「Opus 5と同等」は、総合で見た場合の話と受け取っておくのがよさそうです。

Super Agentのトークンコストも、この3か月で従来の35%まで下がったとZhu氏は話していました。こうしたコスト削減を背景に、同社は2026年9月18日、個人向け有料プランのPlus/Proを対象に「無料利用枠」を導入しています。7日ごとにリセットされ、クレジットを消費せずに使える枠で、対象はStandardモードのスーパーエージェント、AIスライド、AIシート、AIドキュメント、ディープリサーチと、AIチャット/AI画像のコアモデルです。枠を使い切ると自動でクレジット消費に切り替わり、作業は止まりません。Ultraモードは対象外で、クレジットを消費します。法人向けのTeam/Enterpriseは対象外とのことです。

オープンウェイトモデルを使うときのデータの扱い

コストを下げるためにオープンウェイトモデル、それも中国企業のモデルを使うなら、データが国外に流れるのではないか。Zhu氏はこうした質問をよく受けるとして、2つの点を挙げました。

1つは、オープンウェイトモデルやファインチューニングしたモデルを、Fireworks AIやTogether AIなど米国の推論事業者(学習済みモデルを動かして応答を返す事業者)を通じて米国内でホストしていることです。ベースが中国製のモデルでも、データは米国外に出ないとしています。もう1つは、フロンティアモデルの提供元と推論事業者のすべてと、ZDR(ゼロデータリテンション:データを保持しない)契約を結んでいることです。応答を返したあとはデータを削除し、学習にも使わず、誰も閲覧できない状態を保証しているといいます。

なお、7月の「AIワークスペース 6.0」発表時には、エンタープライズプラン向けに国内データレジデンシー(データを国内に置くこと)の提供を始めたことも案内されていました。

エンジニア49人の開発を支える「ライトオフファクトリー」

3つ目のテーマは、組織としてのAI活用です。Zhu氏によると、エージェントの基盤やファイルシステム、CLI、評価の仕組み、ファインチューニングしたモデルまで、すべて49人が1年のうちに作ってきました。8月に公開したオープンソースのオフィススイート「GenOffice」は、エンジニア1人が1週間、1万ドル分のクレジットで作ったものだそうです。直近2週間で会社全体がマージしたプルリクエストは2500件を超え、以前在籍した大企業なら500〜1000人規模で生み出す量だとZhu氏は振り返っていました。

この開発速度を支えているのが、社内で「ライトオフファクトリー」と呼ぶ仕組みです。完全に自動化された工場は照明を消しても動く、という比喩から取った名前ですが、人が要らなくなるわけではありません。人は何を引き受け、何をマージするかに責任を持つ、というのがZhu氏の説明です。

個人が速くなっても組織は遅い、への対策

ただ、個人の生産性が上がっても、組織全体の動きは遅いままになりがちだとZhu氏は指摘します。そこで重視しているのが、組織内のコミュニケーションの帯域です。

1つ目の手段は、「AIワークスペース 6.0」で発表した「GenTeam」です。Slackに近いチャットツールですが、AIエージェントも人と同じ立場の参加者として扱われます。Zhu氏の言葉を借りれば「自分のエージェントが相手のエージェントと話す」形で、文脈や情報を保持し続けるのが得意なエージェント同士がやりとりすることで、伝達の効率が上がるとしています。

2つ目は「チームブレイン(Team Brain)」です。チームの知識をまとめてセカンドブレインのリポジトリにし、メンバー全員で共有します。各メンバーがエージェントに仕事を頼むたびにこの知識が効き、チームとして正しい方向にエージェントを動かす仕組みです。

日本法人の中村氏は、GenTeamの社内での使われ方を実演しました。題材は、Zhu氏が講演の冒頭で触れた、Windows版Speaklyで右Altキーが使えないという報告です。中村氏はこの件を日本語で投稿し、エージェントに英語へ書き直させたうえで登録。担当者への割り当てまでを見せていました。プロダクトフィードバック用のチャンネルには、CEOのエリック・ジン氏が管理するPM(プロダクトマネージャー)役のエージェントがいて、要望を投稿すると、エージェントが内容を判断して担当のプロダクトオーナーに割り当てます。要望はコーディングエージェントにも渡り、人が承認すれば実装に進む流れになっています。

機能の追加ペースに、使う側は追いつけるのか

質疑では、1年で28の機能が加わるペースにユーザーがついていけるのか、という質問が出ました。

Zhu氏は、新製品を出しすぎていて、ユーザーが覚えるのに時間がかかっていることは認識していると回答しました。対策として挙げたのは2点です。今後出すメディアエージェントでは分かりやすいガイドを用意し、誰でも使いこなせる設計にしていること。そして、スーパーエージェントに自社製品の知識を持たせ、使い方や機能の違い、新機能を聞けば答えられるようにしていくことです。

中村氏によれば、ヘルプセンターのドキュメントは、問い合わせの内容などからAIが下書きし、人が承認して反映しています。ただ、製品が増える速度に整備が追いついていない部分があることも認めていました。エンタープライズプランには、利用できるエージェントを企業側で制限する機能もあるそうです。

導入企業の登壇者からも、機能を把握しきれていない部分はあると率直な声が出ていました。そのうえで、「Gensparkのことは Gensparkに聞け」という方針で社内展開しているという話や、社員から新機能を教わることもあり、負担よりも期待のほうが大きいという話がありました。

導入事例:レオパレス21と日総工産

後半は2社が導入事例を紹介しました。両社の概要は次のとおりです。

項目レオパレス21日総工産
導入規模約4000人の全役職員採用業務。20〜30代を中心に約60人を選抜して開始し、利用希望者の増加に合わせて対象を拡大中
開始時期6月にPoC(概念検証の試験導入)、導入決定まで2週間、7月に全社展開5月にはスタートするよう指示があり、まず約60人で開始。グループ13社の情報セキュリティ規定を約2か月かけて整備(登壇者の説明による)
主な用途会議資料の作成、災害時の被害情報の集約と被害傾向の分析求人の競合・相場の分析、求人原稿のチェック、求職者と求人のマッチング

レオパレス21は、約20分の操作動画と理解度テストを用意し、社長からパート社員まで全員がテストを受け、合格した人から順にアカウントを付与したとのことです。以前は社内ガイドラインで入力情報を一律に厳しく制限していましたが、使わせないことがかえって個人ツールでの業務利用(シャドーAI)のリスクを高めると判断し、入力してよい情報の区分を明確にしたうえで展開しています。

日総工産は、ナレッジベースやAgentBase、GenTeamといったGensparkの機能を組み合わせ、特別な開発をせずに「AI社員」を構成しているそうです。調べる・書く・探すはAI社員が担い、人は依頼と判断に集中する、という考え方です。採用件数などの業務数値は控えています。発表中に流れた紹介動画は、今月中に提供予定の新機能「メディアエージェント」で作ったものだと案内されていました。

まとめ:コストと「組織」の2つが軸に

今回のZhu氏の講演は、新機能の紹介よりも、Gensparkが何を目指し、それをどう実現するかの説明に重心がありました。軸になっていたのは、トークンコストの削減と、個人ではなく組織単位でAIを使うための仕組みの2つです。

コストについては、用途別にファインチューニングした自社モデルを用意し、ルーティングやアドバイザーモードと組み合わせて下げる方針がはっきりしています。Gen-1 Slidesの数値を見る限り、少なくともスライド生成ではこの方針が効いていると言えそうです。一方で「Opus 5と同等」は総合スコアでの話で、項目別には一長一短があります。

個人ユーザーにとっての今回の意味を整理しておきます。コスト削減の取り組みは、個人プランの使い勝手にもつながっています。2026年9月18日にはPlus/Proの有料会員向けに無料利用枠が始まり、Standardモードのスーパーエージェント、AIスライド、AIシート、AIドキュメント、ディープリサーチ、AIチャット/AI画像のコアモデルを、クレジットを消費せずに使えます(7日ごとにリセット)。法人向けのTeam/Enterpriseは対象外です。

セカンドブレインは2026年7月20日の「AIワークスペース 6.0」で提供が始まっており、無料プランから使えます。Gen-1 Slidesもプラン限定ではなく、AIスライドのStandardモードの既定モデルになっているため、Plus/Proなら無料利用枠の範囲内でも使えます。メディアエージェントは今月中に提供予定と案内されていますが、対応プランや日本での提供有無は公式にはまだ公表されていません。

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